2014年10月11日土曜日

「世界は一冊の本」 長田 弘

本を読もう。
もっと本を読もう。
もっともっと本を読もう。
 
書かれた文字だけが本ではない。
日の光、星の瞬き、鳥の声、
川の音だって、本なのだ。
 
ブナの林の静けさも
ハナミズキの白い花々も、
おおきな孤独なケヤキの木も、本だ。
 
本でないものはない。
世界というのは開かれた本で、
その本は見えない言葉で書かれている。
 
ウルムチ、メッシナ、トンプクトゥ、
地図のうえの一点でしかない
遙かな国々の遙かな街々も、本だ。
 
そこに住む人びとの本が、街だ。
自由な雑踏が、本だ。
夜の窓の明かりの一つ一つが、本だ。
 
シカゴの先物市場の数字も、本だ。
ネフド砂漠の砂あらしも、本だ。
マヤの雨の神の閉じた二つの眼も、本だ。
 
人生という本を、人は胸に抱いている。
一個の人間は一冊の本なのだ。
記憶をなくした老人の表情も、本だ。
 
草原、雲、そして風。
黙って死んでゆくガゼルもヌーも、本だ。
権威をもたない尊厳が、すべてだ。
 
2000億光年のなかの小さな星。
どんなことでもない。生きるとは、
考えることができると言うことだ。
 
本を読もう。
もっと本を読もう。

もっともっと本を読もう。

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