2019年1月29日火曜日

心が動いた話 みんゆう随想19

 それは元旦のことです。福袋を購入するのに早朝から並んでいました。販売開始までだいぶ時間があったのでスマートフォンを取り出し、インターネットのページにアクセスして目についたエッセイを読んでいました。
 ある夫婦の話でした。妻が夫にある嘘をつきます。夫はその嘘に気づくのですが、夫はその嘘にずっと気づかないふりをしていたのです。夫が妻を思う気持ちに思わず涙がこぼれました。よく見ると2018年のエッセイコンテストで最優秀賞を受賞した作品でした。おおいにうなずけました。
 そういえば前にも元日に感動する話を読んだことがあったな、と思い出しました。
 毎年、お正月は主人の実家で過ごしています。数年前の元旦。お餅を焼こうとストーブがある義母の部屋に行ったところ、ある本を見つけ「もしかして」と思いました。
 結婚式を数ヶ月後に控えていた頃のことです。勤務先に置いてあった本を何気なく読んでいた時にその話に出合いました。感動して涙がとまらなくなり、誰かに泣いていたことが分かってしまうのではないかととても焦りました。
 それは、戦争が終わり夫が抑留されていたシベリアから帰ってくる話です。明日帰宅する、という連絡を受けた妻は野菜を調達するために奔走し、この日のために蓄えておいた米と調味料でささやかな料理を作って夫を迎えます。しかしどんなに頑張っても夫の好きなお酒は用意できず、妻はおちょうしに白湯を入れて酌をします。夫をだましているような気がして顔を伏せ涙をこぼす妻に夫はゴクリと白湯を飲んで「美味しいよ」というのです。はっと顔をあげると夫の目からも涙があふれていました。
 国内の生活物資が欠乏していることを夫も知っていて、杯の湯を口にした時、妻の努力や思いを一瞬で察したのでしょう。互いが互いを思いやる、こんな夫婦に私もなりたいな、そう思いました。
 あの時は何気なく手に取っただけだったので本のタイトルを見てはいなかったのですが、あれから十年以上の時を経て、まさかまたこの本にめぐり会えるとは、それも元日に。そう思って嬉しくなりました。
 そしてこの本は今、私の手元にあります。

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