地名をなくした野原
地上の灯りからはなれたところで
わたしたちは夜の木になった
夜が夜の木に入ってくる時間がわかったよ
二人きりになりたいので
わたしはどんどん一人になる
わたしからも一人になって
あなたとだけいるわたしになる
眼鏡を忘れてきたり
上着を忘れてきたり
足跡を忘れてきたり
・・・(略)・・・
街が近づいてきて
お近づきのしるしのように雨が降った
雨に流されたのは
殉教者風の恋人でした
秋になったら色を変える葉をつけて
冬には忘れられている木
でも木は忘れない
あらゆることを思い出している
木肌がすこしあたたかいとき
優しい恋唄をうたっている
人間だったときに
うたえなかった うたを
(書肆山田「高橋順子詩集成」所収)
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