2016年2月19日金曜日

本 白のままでは生きられない

染色家らしく、志村さん流の色のイメージがステキで書き留めました。


緑はその両界に、生と死のあわいに明滅する色である。

藍という植物が人間に与えられたことは恩寵である。
民族に色があるとするならばやはり日本民族は藍ではないだろうか。

藍の最も盛んな色を縹(はなだ)といい、終末に近づいた色を甕(かめ)のぞきという。
縹は輝く青春の色。甕のぞきは品格を失わぬ老齢の色である。

赤が好きだった。
併しある時期から赤がこちらを向き静かに語らうようになった。
人の情念をかりたてる色、蘇芳(すおう)は魔性の女のように変貌し、人を魅了する。私のなかの炎が次第に沈まり、赤を受け入れる素地ができたのだろうか。

蘇芳は女のしんの色です。紅の涙といいますが、この赤の領域には、深い女の情をもった聖女も娼婦も住んでいます。

紅花の紅は少女のものです。蕾のひらきかかった十二、三歳から十七、八歳の少女の色です。

茜は、しっかり大地に根をはった女の色です。
生きる智慧をもった女の赤です。


ひとは亡くなる前に色の無い世界へ行くという。
そこは痛くも、哀しくもない世界だ。

白のままでは生きられない

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