その昔、実家のすぐそばにはんこ屋さんのお店があった。
はんこ屋さんのオーナーと父はとてもなかよしで
時間があると父は「はんこ屋さんに行ってくる」と言って
何をそんなに話すことがあるのだろうか、よくおしゃべりに行っていた。
私や主人のはんこをつくってもらったはんこ屋さんに
子ども達のはんこもつくってもらえて私は嬉しかったし
もう引退していてもおかしくない年齢なのにまだまだ仕事をしていることが分かった時も
「ああ、よかった!!お願いできる」と思った。
はんこを箱から出して見せた。
オリジナルのフォントも螺鈿細工がほどこされたふくろうのデザインも
「素敵だねぇ、いいねぇ」と言い
母は私たち子ども達ひとり一人にはんこをつくったことを感慨深げに思い出していた。
父は印影をじーっとみながら「はんこ屋さん、腕を上げたなぁ」とつぶやいていた。
何度も何度も印影をじっくりと見ては「いいなぁ」という父。
友人が知らない間に腕を上げたことが嬉しかったのか
娘が長年の友人から大事な買い物をしたのか嬉しかったのか
はんこという、普段使わないものだし
コスパを考えたらそんなに高価なものでなくてもいいのかもしれないけれど
人生の節目に寄り添うものを大事にしたいという価値観が一致していたことが嬉しかったのか
何に嬉しくて満足そうにしていたのかは分からないけれど
父の、嬉しそうにしみじみと「いいなぁ」という顔を見て胸がいっぱいになった。
はんこ屋さんにお願いしてよかったなと思った。
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