雨があがって
雲間から 
乾麺(かんめん)みたいに真直な 
陽射しがたくさん地上に刺さり 
行手に榛名山が見えたころ 
山路を登るバスの中で見たのだ、虹の足を。 
眼下にひろがる 田圃(たんぼ)の上に 
虹がそっと足を下ろしたのを! 
野面にすらりと足を置いて 
虹のアーチが軽やかに 
すっくと空に立ったのを! 
その虹の足の底に 
小さな村といくつかの家が 
すっぽり抱かれて染められていたのだ。 
それなのに 
家から飛び出して虹の足にさわろうとする人影は見えない。 
――おーい、君の家が虹の中にあるぞォ 
乗客たちは頬(ほほ)を火照(ほて)らせ 
野面に立った虹の足に見とれた。 
多分、あれはバスの中の僕らには見えて 
村の人々には見えないのだ。 
そんなこともあるのだろう 
他人には見えて 
自分には見えない幸福の中で 
格別驚きもせず 
幸福に生きていることが――。 
 
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